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あしあと探偵1巻感想と探偵漫画について【監修協力しました】

 

あしあと探偵という漫画を知っているでしょうか?

 

行方不明者専門の探偵事務所で働くことになった主人公と、そこでエースとして活躍する変人探偵の物語。彼らを通して探偵の仕事や行方不明者の実態についてドラマティックに描いている漫画です。

 

その漫画が2巻で完結ということになり、いよいよこの漫画について詳しく書いてみようと思いました。

 

ネットなどで評判になっている漫画というわけではありません。

しかし、この漫画は僕にとっても思い入れの強い作品でもあります。

 

監修に協力した探偵漫画

あしあと探偵は監修協力をさせていただいた漫画です。

 

サナダテツヤの名前は漫画の後ろに記されていますが、この漫画に関しては初期のアイディアの段階でお話を色々と伺っていました。

 

探偵漫画の監修なんて初めてなんですけど、基本的には質問されたことに応えて行くという作業。それと行方不明者の捜索などでどんな人が対象者になりやすいのか?その方法なんかについて答えていった形です。

 

人探しオンリーの探偵漫画

 

僕も探偵以前に探偵もののフィクションマニア。

はやいはなしがミステリマニアなわけで、それなりに探偵系の漫画は読んできましたが、人探しだけに焦点を当てた探偵漫画は今までありませんでした。

 

その点は、やはり作者の園田さんが今まで無い探偵モノが良いというこだわり故でしょう。

 

探偵ものといえば、がちがちの殺人事件を解決する天才探偵。

もしくは泥臭い事件を追うハードボイルド系。

 

前者はコナンや金田一少年。後者は最近ドラマ化したハロー針鼠や、名作「のぞき屋」なんかを思い浮かべる人も多いでしょうね。

 

その中間で、リアル路線よりの漫画といえば「ああ探偵事務所」が有名ですが、それよりもさらにリアル路線で、なおかつ漫画として面白いと思えるのがあしあと探偵だと思っています。

 

行方不明者を追うことの恐怖

 

行方不明者の捜索をメインに描いたあしあと探偵は、第一話から死亡した老人の遺体を発見することからはじまります。

 

では、実際の探偵はどうなのか?

行方不明者の捜索を行っていると、遺体と対面するという場面はどうしても出てきてしまいます。

 

僕が知っている限り、行方不明者の捜索を行う中では1度は人の死に直面します。

とうよりも、どうしても直面せざるを得ない。

行方不明になる人間は自殺、事故、他殺などあらゆる命の危険に晒されています。

その中でも、警察が捜索しても見つからなかったようなケースは、残念ながら死亡している場合も珍しくなく、探し出した結果遺体で見つかることも多いのです。

 

他にも、自殺する瞬間や、死後間もない遺体を見つけてしまうというケースも見られます。

 

本人を追っている最中、わずかな差で相手が死んでしまう。

もしくは発見したとしても、本部と連絡を取っている最中に服毒、飛び降り自殺をしてしまうこともあります。

 

それを怖いと思わない探偵はいません。

一度でも対象者が死んでいたケースに遭遇した探偵は、行方不明者の捜索依頼が来た時、死亡している確率を常に頭で計算してしまいます。

 

探偵は案外人の死に近い

 

探偵が人の死に直面する。

それは、フィクションの世界では人が殺され、その謎を解き明かすことを目的とします。

 

つまり、犯人を探すことが重要であり、死んだ人間が生まれてから物語がスタートする。だからこそ、対象者は死人ではなく、犯人そのものということになります。

 

けど、本物の探偵の対象者は犯人ではありません。

探すのは死んだ人間。もしくはこれから死のうとする人間。

行方不明になるということは、どうしてもその先に様々な死の可能性が待ち受けています。

 

だからこそ、生きていることを確認すること。

それが無理なら死亡の確認を行うこと。

それが行方不明者捜索における依頼者の要望です。

 

推理もしますし、謎も解かなければならない。

けれどそれは犯人捜しのために用いられるものではないのが、あしあと探偵を見ていただければ良くわかるかと思います。

 

平和な人探しも存在する

 

足跡探偵の面白い部分が、全てが行方不明者の捜索ではなく、いわゆる人探しが間に入り込んでいることです。

 

行方不明者の捜索と人探しの違いは、警察への届出がなされているかで判断されます。

 

人探しは基本的に生きていると思われるだろう人物であり、連絡が取れなくなってしまった人を探し出すことにあります。

 

この調査は行方不明者の捜索よりも簡単で、本人を見つけだせる確率が高いです。

また、人探しはその動機が非常に多種多様です。

作中にも出てくるように「一目ぼれした人を探したい!」なんていう依頼は今も多く、その依頼は漫画の中に出てくるとおり、本人の写真どころか名前もわからない相手を探して欲しいなんて依頼もあります。

 

リアルな話をすると、この手の依頼は現代ではストーカー規制法違反に抵触する可能性がかなり高く、相手の連絡先を教えるのではなく、依頼者の連絡先を相手に教えて、あとは本人にお任せするという手法でしか合法的な調査はできません。

 

しかし、この手の調査は全てがストーカー扱いされるわけでもなく、漫画のように交際関係に発展することもあれば、過去の恋人と再会し、再び結婚したなんて話も聞きます。

 

探偵のジレンマについて思いをめぐらす

 

あしあと探偵のアイディアを園田さんと一緒に考えたあと、実際の漫画を送って頂き第一巻を読ませてもらいました。

 

その話を読みながら、人探しにおけるジレンマについても思いをめぐらしたのを覚えています。

 

人間が姿を消す時、それは本人が現実から離れたいという強い欲求があります。

その結果、社会から姿を消した本人は別の場所で全てをやりなおそうとしている事もあるでしょう。

 

であるならば、その人物を探し出すことは本人のためにならないのでは?

 

そうした問題も当然あしあと探偵の中にはしっかりと読み取ることができます。

 

残念ながら、探偵は対象者のために調査をしているわけではありません。

探偵はあくまで「依頼者」のために調査をしている。

それが、このあしあと探偵を見てもらえれば良くわかるでしょう。

 

第二話でアナウンサーの女性が行方を眩ませる事件が発生。

寺崎は持ち前の技術であっという間にアナウンサーを発見しますが、彼女はそのまま姿を消して、別の場所で生活をするつもりだったかもしれません。

 

その事は調査をする上で寺崎自身も気が付いていたことです。

 

しかし、寺崎は依頼者であるテレビ局の意向に沿いアナウンサーを発見すると、すぐさまテレビ局に戻ることを告げます。

 

その結果、アナウンサーはテレビ局へと戻ることに同意しますが、もしも彼女がそのまま逃げようとすれば、寺崎は間違いなく彼女を追い続け、その行先を逐一依頼者に報告していたことでしょう。

 

それが探偵というものです。

全ては依頼者のため。対象者の意思や意向は、依頼者の意向を上回ることはありません。

 

ただ、最悪の事態…例えばDV被害者が調査の対象者になってしまい、探偵がそれに気が付いていないケースなどを割けるため、探偵は対象者を無理にそのまま引き留めるというケースはなく、依頼者に現場に来てもらい、直接の話し合いの上連れ戻してもらうことにしていますし、その部分もあしあと探偵は細かく描写しています。

 

ただし、相手が未成年者や高齢者の場合はそうも行きません。

自殺の可能性は低いものの、事故や事件に会う可能性はかなり高いので、その場で緊急避難のために確保することもあります。

他にもストーカー事案に発展しそうな調査や、過去を洗うべきではなかった相手。そのままにしておけば、だれも不幸にならなかった調査というのも、実際の探偵は行っています。

 

機能美的探偵という珍しい名探偵

 

探偵はヒーローではない。

かといって、ハードボイルドな悪者でもない。

あくまで仕事として割り切っているプロ。それが探偵。

見つけ出すという機能以上のものは必要ない存在であり、そのためならリスクすら引き換えにしています。そのリアルさが、マシーンのように人を見つけ出す寺崎という主人公が体現しています。

 

というのも、園田さんが僕を含め、実際に様々な探偵事務所やそれに関わる人々の取材を行った努力のたまもの。

ただの想像上の探偵漫画ではなく、この漫画はコメディタッチでありながら、ほどよいリアリティと、探偵の世界から見た人間の闇もきちんと描いています。

 

それが良く出ているのが、主人公の寺崎の人物像です。

寺崎は調査のプロです。しかも行方不明者捜索に特化した探偵であり、生涯を全てそこに注ぎ込んでいるような人間です。

 

しかし、人間というよりも、彼の場合は「探偵」であることが先に来ている人物。

その点がリアルでもあり、今までの探偵漫画には居なかったキャラクターだと感じています。

 

寺崎の頭の中は常に調査のことしかありません。

その行動は、もはや「調査マニア」と言えるレベルであり、そのために生まれてきたような人間です。

 

彼は目立つような推理を披露することはありませんが、恐ろしいほど効率的に調査を進める能力があります。

 

それというのも、彼自身「結果」を出すことに執着しているから。

その姿は探偵が見ていると「理想的」でもあり「かなり迷惑」というなんとも絶妙なポジション。

 

調査をやっていたら、探偵はどこか寺崎みたいになっていますね。

あれは絶対なってますね。この漫画を探偵が読んだら「あー自分も寺崎みたいになってるかもー」って思う所が絶対あると思います。

 

なので、探偵じゃない人がこの漫画を読むと「寺崎カッコイイ!」かもしれないんですが、探偵から見るとなんとも微妙なリアリティ。非現実的なキャラなのに、寺崎みたいな所があるというか、そういう面白みが隠されている探偵でもあるのです。

 

1巻で最も好きなのはグンジ君

 

1巻で最も好きな話はグンジ君初登場の回ですね。

あの身寄りのない男の子の話はかなり悲劇的でしたし、ああいう社会の闇に隠れているものが表世界に出てくるのって、探偵ものの醍醐味だったり。

また、グンジ君がドヤンキーだけど実は友情に熱いという美味しいキャラなのも良いですね。若干やましい目で見てもおいしいです。はい。

 

という冗談はおいて置いて、あの話はある人間の過去を探るという話で、調査をしていく上で知るべきではない部分を知らなくてはならないというのがツボでしたね。

 

知るべきか?知らないべきか?

これは非常に難しい問題ですし、郡司君も知りたいけれど、本気で探してはないんですよね。それは彼を汚すことになるかもしれないからかな?とも思ったり。

 

だから探偵には協力的じゃないんですね。

探偵は人のトラブルに首をつっこんでお金をもらう本物のクズ的な発言も、勝手に部屋に入られたのもそうですが、まさに彼を守ろうとしているから。

でも知りたい。

だから結局、寺崎に任せる。

そういうな葛藤があるからこそグンジ君が好きであって、1巻の中では、真の意味で「依頼者」だったなと思うわけです。

 

というわけで、探偵漫画あしあと探偵のご紹介でした。

気になる方はアマゾンのほうからチェックしてみてください。